“あの日、診察室の扉が開いた”―― 栄養療法が目覚めさせた、体のチカラ
2026.2.11
起立性調節障害と向き合う日々の中で、山口里恵院長が最初に感じたのは「この病気は難しい」というもどかしさでした。
どれだけ丁寧にカウンセリングをしても、薬を調整しても、なかなか良くならない。
医師として「正しいこと」をしているはずなのに、子どもたちは苦しみ続けている――。
そんな中、ひとりの車椅子の小学生との出会いが、山口先生の医療人生を大きく変えるきっかけになりました。
それは、「体には回復する力がある」と気づいた、忘れられない瞬間でした。
「教科書通りにやっても治らない」現場での限界
―― 起立性調節障害の治療に、栄養療法を取り入れるようになったきっかけを教えてください。
「4〜5年前、大きな病院に勤務していた頃のことです。
当時は“教科書通りの治療”を一生懸命やっていました。
カウンセリングをしたり、薬を使ったり。
でも、良くならない子が本当に多かった。
中でも、車椅子で来院した小学5年生の男の子のことは、今でも鮮明に覚えています。
立ち上がるとバタンと倒れてしまうので、危なくて一人では歩けない。
お母さんが毎日、車椅子を押して学校まで通わせていました。
本人は学校が嫌いなわけではなく、ただ“体が動かない”だけ。
午前中は起き上がれず、午後になると少し元気になる――典型的な起立性調節障害のパターンでした。
他の病院では、“心の問題じゃないか”“学校に原因があるのでは”と言われたそうです。
でも、私は目の前の親子を見ていて、どうしても納得できなかった。
“この子の体の中で、何かが足りていないんじゃないか?”
そう思ったのが、すべての始まりでした。」

「栄養が足りていないだけかもしれない」
―― 栄養療法に踏み切ったのは、かなり思い切った決断だったと思います。
「当時はまだ分子栄養学を学び始めたばかりでした。
でも、“もしかしたら栄養の不足が原因かもしれない”という仮説がどうしても頭から離れなかったんです。
思春期って、身長も体重も一気に伸びて、ホルモンバランスも大きく変わる時期です。
それに見合うだけの栄養が足りていなかったら、当然、体が持たなくなる。
『栄養を入れたらどうなるだろう?』――その子をきっかけに、初めて本格的に栄養療法を導入しました。
プロテインをしっかり飲んでもらって、鉄とビタミン、ミネラルを十分に補う。
“とにかく体を満たす”ということを徹底したんです。」
“歩けなかった子が歩いてきた日”
―― その後、どんな変化があったのでしょうか?
「2週間後の外来の日。
診察室のドアが開いて、その子が自分の足でスタスタと歩いて入ってきたんです。
もう、衝撃でした。
あれだけ倒れていた子が、笑顔で立っている。
お母さんも涙を流しながら、“本当にありがとうございます”と頭を下げてくださって。
『治らない』と思い込んでいた病気が、たった2週間でこんなに変わる。
その瞬間、“体にはちゃんと回復する力がある”ということを、心の底から実感しました。
医者として、こんなに嬉しいことはありませんでした。
同時に、“今まで見えていなかった何かがある”という確信も持ちました。」

「9割は良くなるけれど、もう一歩届かない」
―― その後、栄養療法を続けていく中で、どんな課題を感じましたか?
「栄養療法で多くの子が良くなりました。
プロテインを飲んで、鉄を補って、体をしっかり満たしていく。
でも、どうしても良くならない子も一定数いる。
また、プロテインを一日3回飲み続けなければならなかったり、
鉄剤をやめるとすぐに数値が落ちて、症状が戻ってしまったり。
“治る”というより、“維持している”感覚に近かったんです。
『これで本当にいいのかな?』というモヤモヤが、ずっと心の中に残っていました。
もっと根本的な部分――体の土台そのものに、まだ何かアプローチできていないのではないか。
そう思いながら、私は“栄養の先にある何か”を探し続けました。」
「栄養だけでは届かない場所がある」
―― そこから“腸”への注目につながっていったんですね。
「はい。
栄養をいくら入れても、なぜか限界がある。
そんな中で出会ったのが、酵素ジュースでした。
初めて飲んだとき、『あ、これだ』と思ったんです。
“腸が整っていないと、どんなに栄養を入れても吸収できない”。
頭では分かっていたけれど、体感として腑に落ちた瞬間でした。
そこから、腸を整えることを中心にした医療へと、私の方向性は大きく変わっていきました。
“栄養だけでは届かない場所”に、やっと光が当たったような感覚でした。」
「“治らない”を“整える”に変える」
―― この経験が、今のクリニックの原点になっているんですね。
「そうですね。
“治らない”と思われていた子どもが、自分の力で立ち上がっていく姿を見て、私は確信しました。
人の体は壊れるようにできているのではなく、“治るようにできている”。
それを邪魔しているのは、栄養の不足や腸の乱れ、現代の生活環境なんです。
だからこそ、体を“整える”ことを中心にしていく。
薬で抑えるのではなく、体の回復力を引き出す方向に舵を切る。
それが、今のHealth&Cureクリニック赤坂の根っこにある考え方です。」
「体の中には、ちゃんと“治る力”がある」
―― 最後に、悩んでいるご家族へ伝えたいことを教えてください。
「“治らない”と言われても、決して希望を失わないでほしいです。
体には、必ず“治る力”がある。
ただ、その力を発揮できる環境が整っていないだけなんです。
食事、栄養、腸の状態、睡眠、ストレス。
ひとつずつ丁寧に整えていけば、体は必ず応えてくれます。
私は、あの日歩いてきた高校生の姿を、今でもはっきり覚えています。
あの瞬間の感動が、私の医療の原点です。
だからこそ、どんな子どもでも、どんな家族でも、
“体の中にはちゃんと治る力がある”――
そのことを、どうか信じてあげてほしいと思います。」




