原因
「朝、どうしても起きられない」「立ちくらみやめまいが頻繁に起こる」――こうした症状でお悩みのお子さんはいませんか?外見からは健康に見えるため、「怠けている」「サボりだ」と誤解されがちなこれらの症状。しかし、それは思春期の子どもに多く見られる「起立性調節障害」という疾患が原因かもしれません。この障害の背景には、自律神経の乱れや栄養不足、さらには心理的要因が複雑に絡み合っています。正しい知識と理解が、子どもたちの健やかな日常を取り戻す第一歩となります。
起立性調節障害の背景
起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation)は、自律神経の機能がうまく働かないことが原因で、特に思春期の子どもに多く見られる疾患です。小学生の約5%、中学生の約10%が発症し、朝起きることが難しい、立ちくらみやめまいが頻発するなどの症状が特徴です。
外見では健康に見えるため、「怠け」や「サボり」と誤解されることも多く、周囲の理解が不十分なことが患者様の苦しみを増加させる一因となっています。本記事では、起立性調節障害の原因として考えられる要因について詳しく解説します。
栄養不足と起立性調節障害
栄養不足が引き金となる可能性
当院では、起立性調節障害の患者様に栄養療法を取り入れ、多くの改善例を見てきました。特に、鉄分やタンパク質などの栄養が不足すると、倦怠感やめまい、朝の起床困難といった症状が現れやすく、起立性調節障害の主な原因の一つとして「質的栄養失調」が考えられています。質的栄養失調とは、カロリーは足りているものの、タンパク質やビタミン、ミネラルなど必要な栄養素が不足している状態を指します。
思春期には急激な成長が求められるため、通常以上に多くの栄養が必要です。特に成長期の子どもには、体重1kgあたり1~2gのタンパク質摂取が推奨されます。しかし、現代の食生活では、炭水化物や糖質が中心になりがちで、タンパク質不足に陥るケースが少なくありません。この栄養の偏りが、起立性調節障害の発症を引き起こす要因の一つと考えられています。
自律神経の乱れ
自律神経の役割と起立性調節障害の関係
起立性調節障害の原因として最も一般的に挙げられるのが、自律神経の異常です。自律神経とは、交感神経と副交感神経のことを指します。この二つの神経は、一つの臓器を二重に支配し、綱引きのように、交感神経が活発なときは副交感神経が休息、交感神経が休息のときは副交感神経が活発になることでバランスを保っています。運動神経のように意識的に動かすことはできず、無意識のうちに調整されます。起立性調節障害では、この両者のバランスが崩れることが大きく関係しているとされています。自律神経は、心拍数や血圧を調整する役割を持ち、特に立ち上がる際に血圧を上げて脳への血流を維持する働きをします。しかし、自律神経がうまく機能しないと、立ち上がった時に血流が下半身に滞留し、脳への血流が不足して立ちくらみやめまいが生じます。
思春期特有の自律神経の不安定さ
思春期は身体が急激に成長し、ホルモンの分泌も活発になるため、自律神経が不安定になりがちです。この自律神経の働きに重要なのが、セロトニンという神経伝達物質です。セロトニンの材料は、鉄、アミノ酸、ビタミンBです。
特に10~16歳の子どもは、二次性徴の影響で心身ともに大きな変化を経験します。その時期に栄養の需要が増し、相対的に栄養不足の状態になります。特に鉄分やたんぱく質が不足しやすくなるために、血管や自律神経の調整機能が一時的に追いつかなくなり、起立性調節障害が発症しやすくなるのです。
心理的要因と起立性調節障害
ストレスと起立性調節障害の関係
ストレスや精神的な負担も、起立性調節障害を引き起こす要因の一つです。ストレスは交感神経が過剰に活性化し、リラックスすべき場面で副交感神経が十分に働かなくなります。血圧の調整がうまくできなくなることで、立ちくらみやめまいが発生しやすくなります。そのため、症状を安定させるためにはストレスとの適切な付き合い方も重要です。
「怠け」や「甘え」ではないという理解の重要性
起立性調節障害は外見からは健康に見えるため、「ただの怠け」や「甘え」と誤解されることが多く、これが患者様にとって大きな負担となります。午前中に体調が悪く、午後になると改善するという特徴があるため、誤解が生じやすく、学校関係者や家族には「怠けや甘えではない」という理解と配慮が必要です。周囲の理解が、患者様の回復を大きくサポートすることになります。
遺伝と生活習慣の関係
遺伝の可能性と生活習慣の影響
起立性調節障害の原因は完全には解明されていませんが、患者様の約半数には家族に同様の症状が見られることから、遺伝的な要因が関与していると考えられています。ただし、当院では遺伝だけでなく、家族内での生活習慣や食の嗜好も大きな影響を与えると考えています。親子で食生活が似ていることで、鉄分やタンパク質の不足が共通する場合があり、起立性調節障害が親子間で共通するケースが多いのです。生活習慣を見直すことで、症状の改善が期待できます。
年齢と発症の関係
思春期に多い起立性調節障害
起立性調節障害は特に10~16歳の年齢層に多く見られる疾患です。この時期は二次性徴の進行に伴い、身体も心も急激な変化を経験します。急成長により栄養の需要が急増し、これに伴って自律神経のバランスが崩れやすくなります。思春期の終わり、すなわち身長の伸びが落ち着く頃には、症状が自然と緩和されることが多いです。これは、成長による体の変化が落ち着くためと考えられます。
起立性調節障害と栄養療法
栄養療法による症状改善の実績
当院では、起立性調節障害の患者様に栄養療法を取り入れることで、約9割の方が症状の改善を実感しています。具体的には、食事指導やプロテインの摂取、必要に応じた鉄剤の内服を行います。不足している栄養素を補うことで、起立性調節障害の症状が緩和されるケースが多いです。特に成長期の子どもにとっては、体重1kgあたり1~2gのタンパク質摂取が望ましく、ほぼ全ての方で不足しています。これまでの実績から、食事内容の見直しと不足分の補充が効果を上げることがわかっています。
起立性調節障害の原因に関するよくある質問
起立性調節障害の原因はストレスですか?
起立性調節障害の原因をストレスと断定することはできませんが、ストレスが症状を悪化させる要因となることはあります。症状を安定させるためには、ストレス管理が重要です。
怠けが原因ですか?
起立性調節障害は「怠け」が原因ではありません。特に午前中の体調不良は自律神経の不調からくるもので、治療を通じて改善が見込めます。周囲の理解が症状改善の鍵となります。
親の育て方が原因ですか?
育て方が直接の原因ではありません。栄養状態や自律神経の不調が主な原因です。
遺伝しますか?
約半数に家族歴があるため遺伝の可能性も否定はできませんが、生活習慣や食事内容が影響することも多いです。
まとめ
起立性調節障害は、自律神経の乱れ、栄養不足、心理的要因が複雑に絡み合った疾患であり、特に成長期の子どもに多く発症します。当院では、患者様一人ひとりに合わせた栄養療法とサポートを行い、日常生活への支障を少しずつ取り除くことを目指しています。症状にお悩みの方は、ぜひ当院にご相談ください。







