「無償化」より先に考えてほしいこと ―― 子どもの体は、食べたものでできている
2026.3.6
給食無償化が各地で進む中、
「Health&Cureクリニック赤坂」院長・山口里恵は、あえてその流れに一石を投じています。
港区長と直接言葉を交わす機会の中で、山口院長が伝えたのは、
「価格よりも、まず“質”を優先してほしい」という明確なメッセージでした。
無償化は、本当に子どもたちのためになるのか。
医師として、母として、日々の診療を通して見えてきた
“現実的な給食改革”について、お話を伺いました。

「無償化」に、違和感を覚えた理由
―― 区長との対話で、あえて伝えた本音
―― 今回、区長と直接お話しされたと伺いました。
「そうですね。
すごく特別ことに聞こえるかもしれませんが、
実は港区の市民と区長が交流する会に参加した、
ただの一区民としての立場でした。
麻布小学校に通うお母さんから声をかけていただいて、
その流れで参加した、という感じです。
でも実は、
“いつか給食の話を直接したい”という思いは、ずっと心の中にありました。」
―― その場で、どんなことを伝えたのでしょうか。
「オーガニック給食の話もしましたが、
それ以上にお伝えしたのが、
“給食の無償化には、正直、慎重であるべきだ”という考えです。
私は、無償化そのものを否定したいわけではありません。
ただ、優先順位として、
まずは給食の“質”を上げることが先ではないかと感じています。」
無償化が生む「声を上げにくい構造」
―― 善意が、逆効果になることもある
―― 無償化に対して、どんな懸念がありますか?
「無償になった瞬間に、保護者が意見を言いづらくなる構造が生まれてしまう、そこが一番の懸念です。
“無料で提供してもらっているのに、文句を言っていいのかな”
そう感じてしまう方は、決して少なくないと思います。
さらに、自治体側も
『できるだけコストを抑えよう』という方向に 引っ張られてしまう可能性がある。
その結果、より安価な食材が選ばれ、
質が下がってしまったら――
それは母としても、小児科医としても、望ましくないことです。」
―― 成長期の子どもにとっては、なおさらですね。
「本当にそうです。
子どもの体は、大人以上に
“食べたものでできている”。
特に成長期は、細胞も、ホルモンも、神経も、
すべてがダイナミックに作り変わっていく時期です。
その土台になる“食”の質を下げてしまうことは、
将来への投資を削っているのと同じだと、私は思っています。」
給食は「一食」ではなく、「お手本」
―― 家庭の食卓に与える影響
―― 給食が、家庭に与える影響も大きいと。
「とても大きいです。
多くのお母さんたちは、給食に“全幅の信頼”を置いています。
『給食があるから、朝は多少適当でも大丈夫』
『一日一食は完璧な食事をしているから安心』
そう思っている方は、実際にたくさんいます。
だからこそ、給食は単なる“三食のうちの一食”ではなく、
家庭の食事の“お手本”になっているんです。」
―― その前提で考えると、責任は重いですね。
「そうなんです。
給食の内容が、そのまま “正解の食事”として家庭に持ち帰られてしまう。
だから私は、給食こそが“本当に健康を目指せるお手本”であってほしいと、強く願っています。」

「数字上の栄養」と「体に入る栄養」は違う
―― 医師として感じる、タンパク質の問題
―― 給食の中身について、具体的な懸念はありますか?
「特に気になっているのは、タンパク質です。
給食の献立表を見ると、一見、十分なタンパク質量が書かれていることも多いのですが、 “吸収率”まで考えると、話は別になります。
タンパク質は、含まれているアミノ酸のバランスによって、実際に体に入ってくる量が大きく変わります。
一つでも欠けていれば、一番低いところでしか吸収されない。
いわゆる“桶の理論”ですね。」
―― 数字だけでは判断できない、と。
「そうです。
特に給食では、牛乳にタンパク質を期待しすぎている印象があります。
“牛乳があるから大丈夫”
“牛乳でタンパク質は足りているはず”
でも、実際に体に吸収されている量を考えると、本当に足りているのかは、疑問が残ります。
この点については、区長自身も『牛乳は見直す余地がある』とお話しされていました。」
「オーガニックの日」が持つ、本当の価値
―― 完璧を目指さなくていい
―― オーガニック給食については、どうお考えですか?
「“完全オーガニック”を毎日、は現実的ではありません。
本当の意味でのオーガニック食材は、 市場全体の0.4%ほどしかないとも言われています。
ただ、月に一度でも
『今日はオーガニックの日です』と明確に打ち出すことには、
とても大きな意味があります。
それは、保護者への“啓蒙”になるからです。」
―― 意識づくり、ということですね。
「はい。学校が旗を振ることで、
『農薬って何だろう?』
『食材の選び方って大事なんだ』
そう考えるきっかけが生まれる。
給食は、食育であり、教育なんです。」
目指したいのは、「お手本になる給食」
―― 医師として、母としての理想
―― 最後に、理想の給食像を教えてください。
「無添加で、できるだけ農薬を避け、
日本の伝統的な和食を大切にした献立。
そして、吸収率まで考えたうえで、成長期に必要十分なタンパク質が取れること。
それが、私が思い描く“お手本になる給食”です。
簡単ではないことは、十分わかっています。
でも、給食が変われば、家庭の食卓も、子どもたちの未来も、確実に変わっていく。
だから私は、これからも一区民として、医師として、このテーマに向き合い続けたいと思っています。」








