「原因がわからない」と言われたあなたへ―― 起立性調節障害の子どもたちが教えてくれたこと
2026.1.28
起立性調節障害や不登校に悩む子どもたちが増えています。
「朝起きられない」「午前中は動けない」「午後になると元気になる」。
そんな特徴を持つこの病気は、医療の現場ではいまだに「原因不明」とされることが多いのが現実です。
「Health&Cureクリニック赤坂」で多くの子どもたちと向き合う山口里恵院長も、かつては同じ壁にぶつかっていました。
教科書どおりに治療しても治らない子どもたち——。
そこから見えてきたのは、「思春期だから仕方ない」では終われない、体の中にある“理由”でした。
今回は、山口院長に“原因不明”のその先にある、回復への手がかりについてお話を伺いました。
「教科書どおりにやっても治らない」現場での違和感
―― 起立性調節障害の子どもたちを診るようになったきっかけを教えてください。
「4〜5年前から本格的に診るようになりました。
最初の頃は、私も“教科書どおり”の治療をしていたんです。
心理的な背景を探ったり、起立性調節障害用の薬を使ったり。
でも、どれだけ丁寧に対応しても、一向に良くならないお子さんがたくさんいました。
むしろ、そういう子どもたちを診るたびに、
『私、本当にこの病気が苦手かもしれない』と感じていました。
“原因不明”という言葉が、どこか逃げ道になってしまっているような感覚があったんです。
治せないから、“原因不明”にしてしまう。
でも、それでは子どもたちは救われない。
そう思ったのが、私が変わっていく最初のきっかけでした。」

「思春期だから仕方ない」では済ませたくなかった
―― 医師として、その現状にどんな違和感を持たれていましたか?
「起立性調節障害というのは、“思春期の自律神経の乱れ”と言われることが多いですよね。
でも、“思春期だから仕方ない”という言葉で片づけられてしまうのが、本当に苦しかったんです。
だって、子どもたちはただ寝坊しているわけじゃない。
朝起きられないことを自分でも責めていて、『なんで自分はできないんだろう』と泣いている。
それを見てきたので、“時期が過ぎるまで待つ”という選択肢は、どうしても受け入れられませんでした。
思春期のこの数年間って、本来なら一番キラキラしている時期なんです。
友達と笑い合ったり、部活に打ち込んだり、何かに夢中になったり。
それを“病気とともに過ごす時間”で終わらせてしまうのは、あまりにももったいない。
だから私は、どうにかしてこの時期の“取り戻せる時間”を増やしたいと思いました。」
「思春期の体には、思春期なりの理由がある」
―― 「原因不明」と言われてきた症状の裏に、どんな“理由”を感じていますか?
「私は今、起立性調節障害は“体の中で起きている栄養のアンバランス”だと考えています。
思春期は、身長も体重もぐんと伸びて、ホルモンも大きく変化する時期。
つまり、必要な栄養の量が一気に跳ね上がる時期なんです。
ところが、現代の子どもたちは、朝ごはんを食べなかったり、加工食品が多かったりと、
成長のスピードに見合うだけの栄養が取れていないことがとても多い。
栄養が足りなければ、血液を送り出す力も落ちるし、自律神経も乱れやすくなります。
結果的に、立ち上がると気分が悪くなったり、午前中動けなかったりする。
それを私は“体からのSOS”だと捉えています。
“原因不明”ではなく、“体が理由を教えてくれている”。
そこに気づくことが、治療の第一歩になると思っています。」
「本当にこれでいいのか?」という問いが、原点だった
―― そうした考え方にたどり着くまで、どんな葛藤がありましたか?
「正直、最初の頃は迷いだらけでした。
大学病院では“エビデンスのある治療”が絶対でしたし、
私自身も、最初は“教科書どおりにやるのが正しい”と思っていました。
でも、どれだけ薬を出しても、カウンセリングをしても、
“良くならない子どもたち”が目の前にいた。
そのたびに、“本当にこれでいいのかな”って思うんです。
あの子たちの時間は、ただ流れていくだけ。
私は医師として、何をしているんだろうって。
そこから、“原因を探す医療”から“回復の道を見つける医療”へと
自分の中の軸を少しずつ変えていきました。」

「“治らない”ではなく、“整えていく”医療へ」
―― 現在の診療では、どんなアプローチを大切にしていますか?
「“治す”というより、“整える”という意識で診ています。
栄養の不足を補い、腸内環境を整え、生活のリズムを見直す。
体の土台を少しずつ立て直していくことで、自然と回復していくんです。
薬だけでは届かないところに、食事や生活の工夫で光を当てる。
それが、いまの私の医療の軸になっています。
“原因不明”とされた症状も、体を丁寧に見ていけば、必ず何かのサインがある。
そのサインを見逃さずに、一緒に回復の道を探していくことが、私の役目だと思っています。」
「“思春期の体”を理解するところから始めたい」
―― 最後に、同じように悩むご家族へメッセージをお願いします。
「“朝起きられない”“だるそう”といった症状を見ても、
『怠けているのでは?』『心の問題では?』と考えてしまう親御さんも少なくありません。
でも、その子は“頑張りたいのに頑張れない”状態なんです。
まずは、思春期の体に起きている変化を知ってあげてほしい。
“思春期の体には、思春期なりの理由がある”。
そう理解することが、親御さんにできる最初のサポートだと思います。
“原因不明”と告げられても、原因がないわけではありません。
子どもの体の声に耳を傾け、一緒に整えていくことから始めてほしい。
私は、そんなご家族をこれからも支えていきたいと思っています。」




