「オーガニックなら安心」ではない ―― それでも“月1回のオーガニック給食”に意味がある理由
2026.3.13
オーガニック給食を推進する自治体が、少しずつ増えています。
一方で、「オーガニック=絶対に安全」「オーガニックなら正解」といった
どこか単純化された議論に、違和感を覚える声もあります。
日々の診療を通して子どもたちの体と向き合ってきた
「Health&Cureクリニック赤坂」院長・山口里恵は、
オーガニック給食について、白黒をつけない、現実的な視点を持っています。
「盲目的なオーガニック信仰には、正直、少し距離を置いています」
そう語る山口院長が、それでも
“月1回のオーガニック給食”に大きな意味を感じている理由とは。
医師として、母として、現場から見えてきた考えを伺いました。
「全面オーガニック」には、現実的な壁がある
―― 医師が感じる、オーガニックの“誤解”
―― 最近、オーガニック給食の話題をよく耳にします。
「そうですね。
一部の自治体では、すでに取り組みを始めているところもありますし、
『オーガニック=良いこと』というイメージは、かなり広がってきていると思います。
ただ、医師として冷静に見ると、
“オーガニック”という言葉が、
少し独り歩きしてしまっている印象もあります。」
―― 具体的には、どのあたりでしょうか。
「まず知っておいてほしいのは、
“本当の意味でのオーガニック食材”は、市場全体の約0.4%しかない
という現実です。
表示のルールにも、実は抜け道があります。
土の上から散布する農薬には表示義務があるけれど、
土の下に注入する農薬については、表示義務がない場合もある。
つまり、“オーガニック表示がある=完全に農薬フリー”
とは、必ずしも言い切れないんです。」

「オーガニック神話」に、医師として警鐘を鳴らしたい
―― 白黒で考えないという選択
―― そう聞くと、少し複雑ですね。
「そうなんです。
だから私は、“オーガニックだから安心”“オーガニックでなければ危険”
というような、極端な捉え方には慎重でいたいと思っています。
もし全国の学校給食を、
市場の0.4%しか存在しない“完全オーガニック食材”だけで賄おうとしたら、
それは正直、かなり難しい。
理想論だけでは、現場は回らないんですよね。」
―― では、オーガニック給食自体には否定的なのでしょうか。
「いえ、全くそんなことはありません。
むしろ私は、やり方次第で、とても意味のある取り組みになると考えています。」
それでも「月1回」に意味がある理由
―― 給食は、親への“メッセージ”でもある
―― 先生が評価されているのが、「月1回のオーガニックの日」ですね。
「はい。
“毎日オーガニック”を目指す必要はありません。
でも、月に1回でも、区や学校が旗を振ることには、とても大きな意味があると思っています。
それは、子ども以上に、保護者への啓蒙になるからです。」
―― 啓蒙、というと?
「『今日はオーガニックの日です』と明確に打ち出すことで、 自然とこんな疑問が生まれます。
そもそも、オーガニックって何だろう?
農薬って、体にどう影響するんだろう?
普段、何を基準に食材を選べばいいんだろう?
こうした問いが、家庭に持ち帰られる。それだけでも、十分に価値があると思うんです。」
給食は、家庭の食卓の「お手本」になる
―― 山口が感じる、給食の影響力
―― 給食が、家庭に与える影響は大きいのでしょうか。
「とても大きいです。実際、診療の中でもよく耳にします。
『給食があるから、朝ごはんは多少適当でも大丈夫』
『一日一食は完璧な食事をしているから安心』
多くのお母さんたちが、給食に“全幅の信頼”を置いているんですね。」
―― だからこそ、給食の内容が重要になる。
「その通りです。
給食は単なる“三食のうちの一食”ではなく、家庭の食事の価値観をつくる存在になっています。
だから私は、
給食こそが“本当に健康を目指せるお手本”であってほしいと、強く思っています。」

「質」より「量」に偏っていないか
―― タンパク質をめぐる、見落とされがちな視点
―― 給食の中身について、他にも気になる点はありますか。
「あります。
特に気になっているのは、タンパク質の考え方です。
献立表を見ると、
一見すると十分なタンパク質量が書かれていることも多いのですが、
“実際に体に吸収される量”まで考慮されているかというと、疑問が残るケースもあります。」
―― 吸収率、ですね。
「はい。
タンパク質は、アミノ酸のバランスによって、吸収率が大きく左右されます。
必須アミノ酸のうち、一つでも不足していれば、一番低いところでしか吸収されない。
いわゆる“桶の原理”です。」
牛乳に頼りすぎていないか?
―― 「当たり前」を問い直す視点
―― 給食では牛乳が定番ですが、その点については?
「正直に言うと、牛乳にタンパク質を期待しすぎている印象はあります。
例えば、
チャーハンとサラダと牛乳で『タンパク質15g』と表示されている献立を見ると、
“本当にそこまで吸収されているのかな?”と感じてしまう。」
―― 区長との会話でも、その話題が出たとか。
「はい。
区長ご自身も、『牛乳については見直す余地がある』とおっしゃっていました。
“給食に牛乳があるのが当たり前”
という前提自体を、一度立ち止まって考える時期なのかもしれません。」
目指したいのは「考える力が育つ給食」
―― 完璧でなくていい、でも意味はある
―― 最後に、先生が伝えたいメッセージをお願いします。
「オーガニック給食について、
私は完璧なオーガニックを目指すのは残念ながら現実的ではないと思っています。
でも、
月に1回でも『オーガニックの日』があることで、食について考えるきっかけが生まれる。
それは、子どもだけでなく、家庭全体の意識を少しずつ変えていく力を持っています。
給食は、強制的に口に入るものだからこそ、なおさら“質”と“意味”が問われる。
だから私は、白黒をつけない、現実的な落としどころとして、
“月1回のオーガニック給食”には、確かな価値がある、そう考えています。」








